2015年 05月 20日
ついに今週末です。
―注文の多い喫茶店―
4人のユーフォニアム吹きが、楽器をかついで、街中を歩いていました。
「どうも喉が渇いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」
「ぼくもそうだ。もうあんまり歩きたくないな。」
「ああ困ったなあ。」
「何か飲みたいなあ。」
その時ふと後ろを見ますと、立派な一軒の西洋作りの家がありました。
そして玄関には、ユーフォニアム喫茶 山○軒という札が出ていました。
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。」
4人が中に入ると、恰幅のいい店主が出迎えてくれました。
4人が思い思いに注文し、十分に喉を潤したころ、店主がこう切り出しました。
「当店では、お客様にユーフォニアムの生演奏をお届けしたいと思っています。曲選びの参考にしたいので、どうか、皆さんで吹いてみていただけませんか。」
4人は、快く引き受けることにしました。
すると店主は、いくつかの楽譜を取り出しました。
「まずはこちらからやってみましょう。」
表紙には、こう書いてありました。
『きらきら星』
「ああ、みんなが知っている曲ですね。」
「色々な楽器のために編曲されているね。」
「これならすぐに吹けるなあ。」
「お安い御用です。」
他にも何曲か、4人で演奏してみました。すると、店主が店の奥からさらに楽譜を持ってきました。
「さすがに皆さんお上手ですねえ。それなら、こちらの曲もいけるでしょう。」
『パワー』
「おや、急に難しくなったなあ。」
「うん、曲名はパワーだけれど、スピードも求められるなあ。」
「チューバのパートをユーフォニアムで吹くのはたいへんだなあ。」
「何とかなるさ。」
『ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス』
「どうもおかしいぜ。」
「これはもともと吹奏楽編成のための曲のはず。」
「いくら聖歌のメロディーを基にしているとはいえ、われわれ4人では難しいと思う。」
「あの店主、まさか…ぼくたちを…」
4人はがたがたがたがた、震えだしました。
曲はどんどん、難しくなっていきます。
『交響的序曲』
「うわあ」
がたがた がたがた。
『パントマイム』
「うわあ」
がたがた がたがた。
4人はあまりに吹きすぎたために、唇がまるでくしゃくしゃの紙くずのようになり、お互いにその顔を見合わせ、ぶるぶる震えてしまいました。
店主がこう言いました。
「皆さんお疲れのようですね。こちらにデザートを用意してあります。」
『フルーツ・パフェ』
…4人はもう、何も言えませんでした。
すべての曲を吹き終えて、4人は店を後にしました。
しかし、さっき紙くずのようになった4人の唇は、しばらくの間もとの通りにはなりませんでした。
おしまい